Bataさんの一喜一憂

Bataさんのサブブログ、ウォーキング以外なんでも書いてしまいます

行き当たりばったり小説:神火 #8

気がつくと1ヵ月もサボっていました^^;

メインブログの記事ストックが少し出来たので、サブブログにも注力します^^(その予定だけど先の話をまだ思いつかないよ)

(最初から読みたい方、途中忘れてしまった方はこちらから→「小説 カテゴリーの記事一覧 - Bataさんの一喜一憂」)


一戦闘終えて学校に戻る巧たち。と言ってもログインするだけなのですが^^


神火 #8

ショッピングモール内にあるパブリックベースからVRSにログインし、教室に戻る。

机に座っている自分の体のコントロールを取り戻したところで、ちょうど2限目の授業が終わった。

加賀先生が教室を出ていくと同時にクラスメートがいきなり俺を取り囲む。

「お前どうしちゃったの? カガッチと互角にやりあうなんて」
「君がそこまで優秀だったとは。我がライバルに相応しい」
「新しい勉強法があるのか? おい、教えろよ」
「タクミくん、感動! ものすごく頭良いのね」

業火と戦っている間に教室でも何かあったようだ。

何があったのか大悟に確認しようとしたが、机に突っ伏して寝てる。授業は疲れるらしく、休み時間はいつも寝てる。

曖昧な返事をしつつ、彼らの話を整理してみると、2限目の物理でカガッチ、つまり加賀先生が出した難題にいとも簡単に答え、さらに難しい数式を駆使して、加賀先生と議論したらしい。

黒板型ディスプレイに見たことがない記号を使っている複雑な数式がたくさん書かれていて、赤で○×や?!の印が付けられている。

そう言えばログアウトした時『いざという時はアイミの姉様達がバックアップしてくれるし・・・』とか言っていた。

隣で同じく複数のクラスメートに囲まれているアイミの方を睨むと舌を出してウィンクしている。頭の上に吹き出しを作って『ゴメン<(_ _)> 姉様達がやりすぎちゃったみたい』と表示してる。

さらに睨むと手を合わせてお詫びするようなポーズを作るが、目が笑ってる。

クラスメート達は気がつかないので、俺だけに見える映像らしい。

この野郎と思うが憎めない可愛らしさがある。

それにしてもVRS内に吹き出しや特定の個人だけに見える映像を作り出すなんて、アイミは何でもありだな。先ほどの戦闘中も驚いたが、凄腕のハッカーに違いない。

チャイムの音で皆自分の席に戻っていった。答えられない質問からやっと解放されて、少しホッとする。

そういえば、こんな時には真っ先に近づいてくる美琴がずっと席に座ったままだった。転校生であるアイミにも近寄っていない。やはり何かあったようだ。

ボーッと授業を聞いていると、紙飛行機が飛んできて机の上に停まった。

横を向くとアイミがウィンクしてる。こんなものまでVRSで作り出せるのか。

いろいろな問題の発生を防ぐため、VRSで新しいオブジェクトを生成することには制約がある。通常は管理者権限がないと実行できないようになっているはず。

開いてみると

さっきはお疲れ様&ゴメン(*^ー゚)
いろいろと訊きたいことあるよね
今晩21時に自分の部屋でVRSに来てね
              アイミ

 と書かれている。読み終わると赤い文字でメッセージが追加された。

なお、このメッセージは20秒後に自動的に消滅します

 えっ?! ボンッと小さく爆発するエフェクトを伴って紙飛行機だったオブジェクトは消滅した。

「うわぁ」

と驚いた声を上げた俺を銀八こと八田先生は見逃さなかった。

「うるさいぞ、神代! 前へ来てこの問題を解いてみろ!」

期待にあふれるクラスメートの目に応えることも出来ず、黒板に書かれた数式の前で立ちすくむ。

俺の天才伝説はこの瞬間に崩壊した。

銀八に小言を言われて席に戻る俺をクラスメートの失望した冷たい視線が取り囲む。

おかげでそれ以降はいつも通りの静かな休み時間を過ごすことができた。

決して負け惜しみじゃないぞ。



一日の授業が終わると、そこで学校は終わる。掃除などがないのがVRSにある利点だと思う。乱れた座席も夜間にリセットすれば整然とした状態に戻る。

美琴はすぐにログアウトしたのか、声をかける前に教室から消えていた。

大悟も少し用事があるということだったので、珍しくまっすぐ帰宅することになった。美琴は家には戻っていなかった。普段は美琴より先に帰ることはないので、「おかえりなさい」を言ってくれる人がいない家は少し暗く少し寂しい感じがする。

夕方遅くなってから帰宅した美琴は簡単に食事の準備をすますと何か考え事があるらしく、

「ごめんなさい、今晩は一人で食べてね」

と言って自分の分を持って部屋に戻ってしまった。いつも違いどこか暗い。

「ああ」

と気のない返事をしてしまう。いろいろと話したいことはあるのだが、どう話したらいいかわからないので、ホッとしている自分に気づく。

自分ではなんとかなると思っていたが、昼間の出来事のせいで、美琴にこれから起こることはとてつもない危機なんだと思い知らされてしまった。

いろいろと知らないといけないことがある。美琴と話すのはそれからにしよう。



時計はもうすぐ夜9時になろうとしている。

ベッドに腰掛けて右手を眺める。

業火との戦闘の最後、自分から発せられた炎、そして手の甲から前腕に伸びる龍のような模様。入れ墨のように見える。

いろいろなことがあり疲れていたが、次から次に浮かんでくる疑問でこのままでは眠れそうにない。

椅子の背もたれを少し傾けてから座る。

神火島の住人のほとんどに支給されていて、VRSへログインするため装置が付いている。首の部分に突起部を合わせてスイッチを入れる。ログイン先を自分の部屋に設定してボタンを押す。

フェードアウトするエフェクトが目の前に広がり、再び明るさを取り戻した時に見えるのは自分の部屋の見慣れた風景である。

椅子から立ち上がるが、椅子の上にある体も動かないままで残っている。

「これ幽体離脱みたいで嫌なんだよな」

何回経験してもこれだけは気持ちが悪い。

部屋の中を見回すと壁に見たことがない、つまりリアルには存在しないドアがある。

ドアを開けて中に入ると、いきなり足下の床がなくなる。ほぼ垂直に近いシューターのようなトンネルを滑り落ちていく。叫び声をあげることもできないまま、到着した場所にいたのは、まどかと名乗った女性だった。

「こんばんは巧くん。ようこそ、シンカ研究所へ」

                               (つづく)

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