行き当たりばったり小説:神火 #1 rev.1
やりたいことはやってみようと思い立ち、なんとなく小説みたいなもの書いてみたくなったので、書いてみることにします。いつまで、どこまで続くかわかりませんが、暖かく見守ってくださいませ
タイトルはとりあえず『神火』としました(これもについても、おいおい説明^^)
#rev.1:2016/10/28
ちょっと思いついたので導入部を大幅に変更してみます
いろいろと説明を追加。巧の能力も出してみます
神火 #1
退屈。この島での生活を一言で表すと、この単語が一番当てはまる。
快適な生活で近未来の生活を試行する実験都市と言えば聞こえはいいが、不自由のない生活というのは人を飽きさせる。どうしても何か刺激が欲しい。
だから部の掲示板に書かれた匿名の投稿をガセネタではないかと90%以上疑っていても、飛びついてしまう。
『件名:怪異!人が消える地下通路
島の地下に人が消える通路があるんですよ。
確かに通路に入っていく人がいたので追いかけてみると誰もいない。
地下だから絶対AVRじゃないですよ。場所は・・・』
AVRとはこの島の実験の1つ、『拡張仮想現実』で、簡単に言えば、リアルで見えている映像に仮想現実の同じ場所の映像を重ねて見せる。遠隔地との新しいコミュケーションツールで仮想現実空間(VRS)にログインしている人が隣にいて話していると錯覚するくらい違和感がない。半年前に島に来て初めてAVRを体験した時は感動して声が出なかったのを覚えている。
VRSからログアウトすると有名なSF映画で転送されるシーンのように瞬間的に人が消えてしまうので、AVRエリアでは人が消えるなんてことは島の常識になっている。
しかしAVRは島内の特定のエリアのみで実験されていて、書き込みの通り、島の維持管理施設があるだけの地下部分にはないはずである。
書き込まれていたGPS座標に従い、今日も大悟と二人、住宅エリアの周囲にある緑地の一角にポツンと飛び出すように置かれている『関係者以外立入禁止』と書かれたドアまで来てしまった。
ドアに鍵がかっておらず、おそるおそる大悟と二人、中に入ってみた。長い階段を下りた先にあった右に曲がる短い通路の先は行き止まりになっているだけだった。数分周囲を調べてみたが、やっぱり何もない。
「島の建設時に使われた工事用通路が遺っているだけだろ、誰も来ないさ。やっぱりガセだったな。それに人が消える以前に人がいない」
大悟の表現は容赦ないが、状況を的確に表している。
「しかし使われていない場所にしては、きれいだし照明がつくのが気にならないか? 我々『島伝説探求部』としてはここで引き下がる訳にはいかないだろう」
と食い下がってみる。
『島伝説探求部』、何故かこの島内で頻繁に発生する都市伝説のような噂の真偽を確かめて報道するという名目で作った部活動である。一応、高校では新聞部として認可されている。一応顧問の教師もいるが放任されており、現在部員は大悟と俺の2名だけ。
活動開始してから3ヵ月、噂の真偽を追求した結果を記事にして島内のSNSサイトに投稿している。
噂のほとんどは追求してみると、その多くは島で行われている実験をたまたまた目撃した人の勘違いであることもわかってきたが、『神隠しがあった』とか『化け物を見た』とか、追求中の怪異現象もたくさんある。
活動が少しずつ認知されてきたせいか、困ったことに面白がって創作した都市伝説、つまり完全なガセネタを投稿してくる奴も増えてきた。
地上に戻り、ドアの近くの茂みに隠れて、30分近く待ってみたが、やっぱり誰かが来る気配はない。
「今日は帰るか」
「ラーメンでも食おうぜ。ここ寒いんで体が冷えちまった」
大悟の提案に賛成しようとすると、人がが近づいて来た。
「誰か来る!」
「誰か来る?」
二人同時に小さく声を発していた。作業着を着た男が周囲に人がいないのを確認するとドアを開けて中に入っていく。
少し待ってから、再び大悟と二人、地下に降りてみた。少し先を歩く男の足音が止まったので、曲がり角の手前から通路の先を見てみると、男が地面に出来た格子状の盤の上で数回ステップを踏んでいる。
行き止まりだった場所に線でドアが描かれ、いきなり開いた。男が中に消えると再び壁に戻ってしまった。
「人が消えるって、こういうことだったのか」
と驚きながら、壁を触ってみる大悟。
「ちょっと待ってくれ」
AVRグラスをかけて周囲を眺めてみる。
AVRグラスは島民には1つずつ支給されている高機能メガネである。島内で生活するために必須であり、例えばAVRエリア内ではリアルに存在している人を見分けられるように、赤外線感知できるような機能が付与されている。
行き止まりの横の壁にうっすらと手のような形の温度が違う場所が見える。同じ位置に手を当ててみると足下に9マスの格子が表示された。
「さっきの男がやっていたのは・・・」
同じようにステップを踏んでみる。
「おっ! 巧の必殺、形態模写」
一度見た動きを何故か正確に再現できてしまう、俺の特殊能力。普段は教師の物真似をして周囲を笑わせるくらいしか役に立たないが、かなり精度で動きを再現できる。
先ほどと同じように壁に現れたドアが開き、その先にはオレンジ色の小さな照明があるだけの薄暗い通路が続いている。
「やっぱり巧はすごいな」
大悟が名前を出すときは本当に感心している時だけである。
大悟に笑顔と親指を立てて返事をしながら中に入ってみると、いきなり後ろでドアが閉まる。
ドアのあったところに戻ってみるが、壁に戻っている。何か操作できるようなスイッチもない。まずい閉じ込められた?!
「おい、巧。大丈夫か」
壁を叩く音と大悟の声は聞こえる。どうすればいいんだと考える間もなく、天井からガスが吹き出してくる。
「しまった。睡眠ガス?」
口を塞いだが既に遅く、段々と意識が遠のいていく。
薄暗い通路の向こうから一人の女性がやってくるの見えた。長い髪に眼鏡。そして白の下に大きな胸が見えたが、そこまでだった。
「神火島の最深部へようこそ、神代巧くん」
聞き覚えのある、優しい声で自分の名前を呼ばれたような気がした。
(つづく)